昔、私は通訳とか翻訳とかに憧れていた時期がありました。
英語が好きだったし、英語そのものになんだかすごく憧れていたわけです。
だから、英語の歌を聴いて歌詞を覚えるとか、この上なく特別な感じがしていたんですね。
教科書の英語はとてもとてもつまらなかったので
英語の授業中はずっと好きな歌の英語の歌詞を何度も何度も書いて
知らない単語を一字一句調べるのが大好きでした。
私が辞書には出て来ない、ネイティブの英語表現を知らなかったからなのか、
ものすごく違和感があったこと。
歌詞カードの英語の歌詞の和訳。
どう考えても意訳というより誤訳じゃないかと思うことも多くて、
いつか歌詞の訳をしてみたいなあと思ってたことを最近また思い出しました。
折に触れて思い出すんですね。
いざ自分でやってみようと思ったら、案外というか全然できないんですね。
いや、ひどいもんです。もう、ほんとうに。
村上春樹が、「村上ソングス」という本の中で、
好きな曲を自分の思いも交えながら紹介しつつ、村上さん自身が歌詞の訳をしてるものがあるんですが、
それは自分でもやりたいと思ってたことだったから、
何度もトライしたことがあります。何度も。
でも一文さえ完成させることができなかったですね。
こんなにずっとブルース・スプリングスティーンの曲を聴いて来ながら、
いざ彼について、そして私が一番好きなThe Riverという曲について書こうとしても
訳もできなければ語ることもできない。
その村上ソングズの中で、ブルース・スプリングスティーンの
NEBRASKAというアルバムに入っている「State Trooper」という曲が紹介されています。
私はその曲があまり好きではないので記憶にさえほとんどないのですが、
村上さんのその文を読んで、なんだか胸がざわざわして、胸が苦しくなって、その曲が聴きたくなりました。
改めて聴いてみてやっぱり好きではなかったけど、文章で人をそういう気にさせるのはやはりすごいですね。
ただ、The Doorsの「Light my fire」が ”ハートに火をつけて” と訳されてることついて
疑問を感じている村上さんが村上さん流に訳していたものをなんかのエッセイかなんかで昔見ましたが、
うーん、それはどうだろう?とちょっとさむい感じがしたのは覚えています。。
まあ、でも、やっぱりジム・モリソンに
ハートに火をつけて、なんて甘い歌詞は合わないですね。
あ、一つ言いたいのは、私がブルース・スプリングスティーンを好きなのも
The Doorsを一時期結構聴いていたのも、村上さんとは全く関係ないです。
私が好きなものを、とてもすばらしく紹介されちゃって、
ちょっとムカついちゃったりしています。
だから、彼のエッセイ「意味がなければスイングはない」の中で
ブルース・スプリングスティーンについて書いている章があるそうですが
絶対読まないと決めていてまだ読んでません。
自分でブルース・スプリングスティーンについて書けるようになるまで読まないんです。
「村上ソングズ」では不意打ちでブルース・スプリングスティーンが出て来てしまったから
読んでしまったけどね。よかった、あまり好きな曲じゃなくて。
「The River」について書かれていたら、私は読んだことを一生後悔するだろうな。
とてもとても影響されてしまって、自分の言葉では書けなくなりそうだから。
村上ソングズ (村上春樹翻訳ライブラリー) |
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村上 春樹
中央公論新社 2010-11 |
