ラニちゃんは、私のフラのお教室の中で、ひとり違った空気をまとう特別なダンサー。
ラニちゃんが、すうっとフラポジション(曲が始まるまで待つ姿勢)に入った瞬間から、
彼女の周りの空気の色が変わる。
うまいフラダンサーが最近増えた。本当に増えた。
日本のダンサーでもハワイの人よりうまいんじゃないかって思う人がたくさんいる。
でも、ラニちゃんは、うまいとかいう次元にいない。
ラニちゃんの踊りを上手いとか言ったら、なんだか失礼な気がするくらい。
ラニちゃんがひとたび踊りだすと、
そこはこの世じゃない、でもあの世でもない、
どこか分からないけれど、とても美しい世界へと変わる。
まるでファンタジーの世界の中のようだ。
派手派手しくないその踊りの美しさに本当に気づいたのは、
ホノルルに来て少し経ってからだ。
それまでは、レッスンを受けるだけで必死で、
周りのフラシスターの踊りをじっくり見る余裕なんてなかったし、
少し派手なダンサーに目がいっていたのだ。
そのダンサーもとても素晴らしいんだけれど。
ラニちゃんの踊りが他のダンサーと一線も二線も画している理由の一つは、
”目の輝き”だ。
私達のフラの先生が言うように、”目の奥の輝き”が他のダンサーと全く違う。
ラニちゃんがひとたび踊りだすと、
その目が見ている風景が、私の目にも映し出される。
曲の内容がわからなくても、体の芯に、心の奥の奥の方に響いて来る。
語りかけて来る。
チャントが神がかってうまいことも、彼女の踊りの”この世感”をなくさせている要因だ。
とても静かに、でもとてもフラに対して情熱的で真摯な彼女は、
レッスンの途中で、
「必死でステップを踏んでいる人がいる。でも、そうでない人がいる。そうでない人は、今すぐさっさとお家に帰りなさい。時間の無駄だから。時間は有限よ。私は必死でレッスンしている人の時間を無駄にしたくはないわ!」
と静かな情熱的な目でぴしゃっと言い放ったりする。でも、とても穏やかに静かにだ。
なんというかっこよさ。
しびれる。
少しシャイで、誰とでも仲良くするようなタイプじゃないので、
私はいつも話しかけたりはできず、彼女の言葉ひとつひとつをかみしめ、
彼女の動きの一瞬も見逃すまいと全神経を彼女にそそぐだけ。
ずっとずっと見ていたいその踊り。
そして少しでも彼女のように踊れたらと思う。
彼女は、天(Lani)からの贈り物だ。
