いろいろ著名な方のスピーチで心に残るものは、みなさんそれぞれあるでしょうけれど、
時にふれて、思い出すというか、心に残るスピーチは美智子皇后の読書に関するスピーチです。
それは、第26回IBBYニューデリー大会(1998年)での基調講演で、
美智子皇后が子供の頃の読書の思い出とともに、子どもにとっていかに読書が大切か、
ということをお話されているものですが、私は、その終わりのほうのパートに胸を打たれ、
折に触れて読み返しています。
それは、単純に、美智子皇后の言葉が胸にしみいるのと、
最近は、その言葉が私にとってのフラにも通じると思うからです。
生きにくい時代を、複雑さに耐え、自分を受け入れて生き抜くために必要なもの。
それは、子供にも大人にも必要です。
その生き抜く力をフラからも本からも得ていると私は思います。
以下、基調講演の終わりの方の部分の抜粋です。
『今振り返って、私にとり、子供時代の読書とは何だったのでしょう。
何よりも、それは私に楽しみを与えてくれました。そして、その後に来る、青年
期の読書のための基礎を作ってくれました。
それはある時には私に根っこを与え、ある時には翼をくれました。この根っこと
翼は、私が外に、内に、橋をかけ、自分の世界を少しずつ広げて育っていくときに、
大きな助けとなってくれました。
読書は私に、悲しみや喜びにつき、思い巡らす機会を与えてくれました。本の中
には、さまざまな悲しみが描かれており、私が、自分以外の人がどれほどに深くも
のを感じ、どれだけ多く傷ついているかを気づかされたのは、本を読むことによっ
てでした。
自分とは比較にならぬ多くの苦しみ、悲しみを経ている子供達の存在を思います
と、私は、自分の恵まれ、保護されていた子供時代に、なお悲しみはあったという
ことを控えるべきかもしれません。しかしどのような生にも悲しみはあり、一人一
人の子供の涙には、それなりの重さがあります。
私が、自分の小さな悲しみの中で、本の中に喜びを見出せたことは恩恵でした。
本の中で人生の悲しみを知ることは、
自分の人生に幾ばくかの厚みを加え、他者への思いを深めますが、本の中で、過去
現在の作家の創作の源となった喜びに触れることは、読む者に生きる喜びを与え、
失意の時に生きようとする希望を取り戻させ、再び飛翔する翼をととのえさせます。
悲しみの多いこの世を子供が生き続けるためには、悲しみに耐える心が養われると
共に、喜びを敏感に感じとる心、又、喜びに向かって延びようとする心が養われる
ことが大切だと思います。
そして最後にもう一つ、本への感謝をこめてつけ加えます。読書は、人生の全てが、
決して単純でないことを教えてくれました。私たちは、複雑さに耐えて生きて
いかなければならないということ。人と人との関係においても。国と国との関係においても。
どうかこれからも、これまでと同じく、本が子供の大切な友となり、助けとなる
ことを信じ、子供達と本とを結ぶIBBYの大切な仕事をお続け下さい。
子供達が、自分の中に、しっかりとした根を持つために
子供達が、喜びと想像の強い翼を持つために
子供達が、痛みを伴う愛を知るために
そして、子供達が人生の複雑さに耐え、それぞれに与えられた人生を受け入れ
て生き、やがて一人一人、私共全てのふるさとであるこの地球で、平和の道具
となっていくために。』
